腎臓のはたらきには@老廃物の排せつ、A水分の調節、B電解質バランスの調節、Cホルモンの産生(および活性化)の四つがあり、慢性腎不全ではこれらの機能が障害されます。これから、慢性腎不全で透析中(慢性腎臓病「病期5」透析中;CKD−5D)の病態と対処について理解を深めるために必要な話をしていきたいと思います。
図1 生体の水分量(標準モデル)

今回は「体液量の増加」により何が起こるのかを解説し、そこから「除水」をすると「血圧」が低下するのはなぜかを理解してもらい、最後に「慢性的な水分過剰」で「持続的な血圧上昇(高血圧)」が起こることについて話したいと思います。
 初めに「体液の分布」についてお話します。体液量(生体に含まれる水分の総量)は中肉中背の標準的な体格の場合、全体重の60%であり、体重50kgの人で約30kg(30L)が水分です(図1)。一方、筋肉は水分が多く、脂肪は少ないため、同じ体重なら脂肪が少ないやせた男性で水分量が多くなります。また、全体液量の3分の2(全体重の40%)が細胞内にあり、一方、3分の1(全体重の20%)が細胞外に分布しています。体重50kgの人では体液量30Lの3分の1に当たる約10Lが細胞外に分布します。また、細胞内と細胞外の間には細胞膜がおり、水や電解質は自由に出入りができません(図2)。以上より、経口摂取による体液量増加と透析による除水は主に細胞外液で起こるため、以下に細胞外液についてお話します。
 全体重の20%の細胞外液のうち4分の1(全体重の5%)が血管内にある血漿、4分の3(全体重の15%)が細胞間質にある間質液で、血管内の水分は体重50kgの人で2.5kg(2.5L)程度に過ぎません。また、細胞外液中の血漿と間質液の間を毛細血管壁を介して水や電解質は自由に出入りします(図3)。

図2 細胞内液および外液の相互間分布
図3 細胞外液中の血漿および間質液の相互分布
経口摂取された水や電解質は吸収されて血漿中に入った後自由に間質液に移動し、数時間以内に平衡状態となります。つまり体重増加分の水は細胞外液全体の増加として血漿と間質液の両方に均等に分布します。ここで正常な腎機能があれば速やかに尿として余分な水分を体外に排泄できますが、腎不全患者では十分に排泄できずに細胞外液中に止まり、血漿の増加は血圧上昇、間質液の増加は浮腫を引き起こします(図4)。
 透析患者では増加した水分を透析で除去(除水)します。血液透析による除水は血管内にある血漿からのみ行われます。低下した血漿が間質液により補充される作用を血漿再充満(プラズマリフィリングplasma refilling)と呼びますが、血漿と間質液の水や電解質の移動には時間差があり、均等になるまでの数十分〜数時間は血漿量の低下を間質液よりの血漿再充満で完全には補い切れず、血漿の低下(血圧低下)はあるのに間質液はまだ増加(浮腫)している状態となります(図5)。

図4 細胞外液の増加による影響
図5 除水による血漿量と間質液量の変化
ここで、血漿と間質液の水や電解質の分布と血漿再充満についてすこし補足します。細胞外液の分布は@互いに押す力(静水圧)は血漿側の方が強く間質液側に押し出す力となり、一方、Aアルブミンなど血管内に止まり引き込む力(膠質浸透圧)は血漿側に引き込む力となり、@とAが平衡状態となっています(図6)。除水により血漿から水分が除かれると、静水圧は間質側へ押し出す力が弱くなり、一方、膠質浸透圧はアルブミンが濃縮されて血漿側へ引き込む力がさらに強くなり、いずれも水分の血漿側への移動を助けるように変化します(図7)。
図6 血漿と間質液の間の水分移動に影響する因子
図7 除水により血漿再充満(プラズマリフィリング)の
   起こり方
しかし、これだけでは血漿容量は体重50kgの人で2.5L程度ですから、除水を1Lもすれば血漿再充満が平衡に達する前に血管内脱水により血圧が低下してショック状態になってしまいます。これを防いでいるのが交感神経系を介した代償機構です。血液透析中の除水による循環血漿量の低下は心充満量の低下、心拍出量の低下をきたし、血圧低下を引き起こしますが、実際には交感神経系などを介してさまざまな代償機構が働き、それでも代償しきれない場合に血圧低下が起こります(表1)。血圧低下をきたす前に、静脈収縮に加えて足を上げて下肢の血漿が脳や臓器に行きわたるようにしますが、補い切れずに心拍数が上がってドキドキしたりします。さらに、末梢血管が収縮すると皮膚の血管収縮で熱の放散ができなくなり熱くなる経験があると思います。しかし、それでも代償しきれないと、血圧が低下してしまいます。
 一方、水分過剰による体液量の増加は血圧上昇をきたしますが、慢性的に水分過剰が続くと末梢血管の収縮が起こり、体液量の増加は軽減され、血圧上昇のみが強く起こります(図8)。つまり、血圧上昇はあるが体重増加や浮腫は目立たないことがよくあります。しかし、原因は体液量の増加ですので、ドライウェイトを下げて余分な水分を除き、しばらくすると上昇した血圧が元まで下がってきます。透析患者の血圧変動の80%以上がこの体液量の変化によるもので、水分管理やドライウェイトの再設定で改善するものです。
 本日の話はここまでです。始めに云った「体液量と血圧」の関係について理解できたでしょうか。本日のお話はここまでとさせて頂きます。

表1 循環血漿量の低下が血圧低下を引き起こす
   までに働く代謝機構
図8 腎不全の高血圧